２０１３年３月３月にウフィツィ美術館（フィレンツェ）を訪問しました。今回は、サンドロ・ボッティチェリ作「ヴィーナスの誕生」を紹介します。
 　サンドロ・ボッテチェリ（１４４５～１５１０年）はフィレンツェで生まれ、フィリッポ・リッピに師事しました。１４７０年に師のフィリッポ・リッピが亡くなり、自分の工房を構えました。１４７２年にフィレンツェの聖ルカ組合に登録して、徐々に名声を得ました。

　「ヴィーナスの誕生」は、「プリマヴェーラ」・「パラスとケンタウルス」と同時期か直後に描かれました。「プリマヴェーラ」は木板で２０３ｃｍｘ３１８ｃｍの大作で、相当重いと思われます。それに対して「ヴィーナスの誕生」と「パラスとケンタウルス」はキャンバスで、可成り軽くなっています。三枚とも、ロレンツォ・ディ・ピエルフランチェスコの別荘に飾られていたと考えられています。寝室前室のソファーの上の壁に「プリマヴェーラ」が飾られ、その左側ドアの上に「パラスとケンタウルス」が飾られていたという記録があるようです。「プリマヴェーラ」の左端の男性が、「パラスとケンタウルス」の様子を見ている配置です。「プリマヴェーラ」右側の西風の神と女性と「ヴィーナスの誕生」左側の男女と同じと見られます。これらを考えると三枚は一組で、「プリマヴェーラ」の上に「ヴィーナスの誕生」を飾ることを想定して描かれたと思われます。
　当時の状況を考えるとメディチ家当主のロレンツォ・ディ・メディチが、親しい従弟（ハトコ？）のロレンツォ・ディ・ピエルフランチェスコの結婚を祝って贈った絵画と思われます。新婦は元来ロレンツォ・ディ・メディチの弟のジュリアーノ・ディ・メディチの許婚だったようです。１４７８年にジュリアーノは暗殺されました。当主のロレンツォ・ディ・メディチはその代わりに、ロレンツォ・ディ・ピエルフランチェスコに娶せました。その結婚のお祝いの贈り物です。それを前提に絵画を解釈します。
　ヴィーナスは「愛、相愛、情愛の成就」を象徴しているようです。「プリマヴェーラ」で左端の男性（ジュリアーノ）が結婚すると貞節を求められ厄介だと、美女たちを見ていません。ヴィーナス頭上のキューピッドが目隠しして、弓を三人の美女の誰かに射ようとしています。ヴィーナスは首をかしげて、右手で止めるポーズです。右端の西風の神（新郎のピエルフランチェスコ）は女性（新婦）を思い詰めて略奪します。「ヴィーナスの誕生」で新郎と新婦は仲良く相思相愛で、右の春の女神のベールの向こうにヴィーナスと一緒に飛び込もうとしています。相思相愛で目出度し目出度しという解釈です。仲人として婚約変更を詫びるとともに、新郎が新婦を望んでの結婚なので円満な夫婦になってくれとの思いを込めたと思われます。ヴィーナスのモデルは、メディチ家で所蔵していたヴィーナス像を参考にしたと言われています。シネモッタ・ヴェスプッチの容貌を流用した可能性はありますが、あまり深い意味は無さそうに感じます。

ヴィーナスの誕生（サンドロ・ボッティチェリ、１４８３年頃作）