世界美術館巡り旅

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2016年08月

 ゴッホの絵画を多数見た経験から、私が感じる傑作と世評にズレがある事が分かった。私が選ぶベスト・スリーは下記です。
跳ね橋(1888年作、クレラー・ミュラー美術館所蔵)
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4本の切ったひまわり(1887年作、クレラー・ミュラー美術館所蔵)
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カニ(1888年作)
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 これらの三作品は、ゴッホの画力がピークを迎えた1887~1888年に描かれています。画力/美しさ/斬新性ともに出色の傑作です。
 ゴッホの画歴を紹介します。牧師の息子に生まれたゴッホは、牧師になることを諦めて画家を目指す決心をしたのが1880年頃のようです。弟の理解と仕送りで、画家になるべく研鑽に励みました。年上の女性に求婚したり娼婦と同棲したりと、女性関係ではトラブル続きの人生だったようです。
 ゴッホの画力の源泉は、たぐいまれな鉛筆デッサン力です。上記三作品は、その技量を遺憾なく発揮しています。
1880~1882年
    鉛筆デッサンに僅かに色彩を載せたような画風です。1882年頃に
   売れやすい風景画を描く事を勧められ、描き始めました。
1883~1885年
    ミレーの影響か農民の生活を描くことを目指します。1885年に父が
   亡くなり、集大成として「馬鈴薯を食べる家族」を描きました。
馬鈴薯を食べる家族(1885年作)
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    1885年11月にアントワープに移住しましたが、間もなく居られなく
   なりました。
1886~1887年
    モンマルトルの弟の部屋に転がり込み、画塾に数か月通いました。
   売れることを期待してか、風景画に加え花の絵を描き始めました。
   様々な画風を試してみたり、多数の自画像を描きました。「なぜ自分の
   描いた絵が売れないのだろう?」と、自分を責めたと思われます。
花の絵(1886年作)
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1888年
    ゴーギャンの絵に惚れ込み、同居して制作に励みました。暫くすると、
   お互いの絵に口出しするようになり喧嘩別れしました。
葡萄畑の収穫(1888年作)
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1889~1890年
    精神を侵されて、精神病院に入院したりしました。糸杉が代名詞ですが、
   このころから描き始めた題材だったようです。
ひまわり(1989年作)
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耳を切った自画像(1889年作)
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カラスの居る麦畑(1890年作)
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 ゴッホはゴーギャンのデッサンの不備(不整合)を散々指摘して、ゴーギャンはゴッホに「記憶で描け。(デッサンに拘りすぎるな?)」と反論したようです。
 ゴーギャンの助言の為か、精神の問題(根気が無くなった)か1889年以降、ゴッホの抜群のデッサン力は影を潜めてしまいました。ゴッホは自分の絵が売れる/認められる事を望んで(焦って)、1886年以降様々な画風を試しては諦めるのを繰り返しました。1887年から1888年の画風を自分の画風と定め、その画風を守れば生前に名声が得られたのじゃないかと考えるのは邪推でしょうか?
 ゴッホが自分のデッサン力を封印した以降の作品が、死後持て囃されるとは不思議なものです。写実的な絵の進歩が止まってしまい、セザンヌ/アンリ・ルソー/モディリアーニ等のヘタウマが持て囃された時代背景があるのでしょうか?

 画家のカルロ・クリヴェッリの名前をご存じの方は非常に少ないと思います。私も知らなかったのですが、一枚の女性肖像をみて気になっていた絵を思い出しました。先ず思い出した作品を紹介します。
マグダラのマリア(カルロ・クリヴェッリ、1475年作、アムスルダム国立美術館蔵)
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非常にモダンな絵で、19世紀末当たりの作品かと思っていました。
この絵を思い起こさせた絵も紹介します。
聖母子(カルロ・クリヴェッリ、1490年作、ブレラ美術館蔵)
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興味を覚えたので、画家を調べて見ました。驚いたことに15世紀の画家でした。
 カルロ・クリヴェッリは1430年頃にヴェネツィアに生まれ、1495年に亡くなったようです。古いパドヴァ派に数えられたり、ヴェネツィア派に数えられたりしているようです。生前から画家の名声を得たようで、1490年にナポリ公からナイト(騎士)の称号を授けられたようです。
 他の作品も紹介してみます。
聖母子(カルロ・クリヴェッリ作、ワシントン・ナショナルギャラリー蔵)
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聖エミディウスのいる受胎告知
(カルロ・クリヴェッリ、1486年作、ロンドン・ナショナルギャラリー蔵)
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聖エミディウス部分
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ロンドン・ナショナルギャラリー所蔵の絵を見ると、15世紀の雰囲気も感じます。すべての絵が猛烈な細密描写です。大変な技量です。どうも女性を描かせると時代を飛び越しているようです。稀有な画家です。記憶に留めて頂けると幸いです。

 聖母被昇天と言えば、アントワープのルーベンス作品が有名です。「フランダースの犬」の影響と思われます。作品のオリジナリティーから見ると、ティッツアーノ作の聖母被昇天が出色です。そこで、聖母被昇天の作品を調べて見ました。
 キリスト教は元来キリストを崇拝する宗教です。元来偶像禁止の宗教でもありました。旧約聖書の中には、聖母マリアの奇跡の話はありません。東ローマ正教により、マリアへの信仰が進みました。10世紀以降東ローマ帝国の周辺地のポーランド/チェコ/スロヴァキア/クロアチアなどで、聖マリア教会が建てられ信仰が進みました。
 16世紀にカトリック教会/イエスズ会が結成されると、聖母マリア信仰が進展しました。奇跡も認められました。
 聖母被昇天の絵画/祭壇画で調べた限りは、1489年に制作されたファイト・シュトースの祭壇画が最初の作品のようです。
          ファイト・シュトース祭壇画の聖母被昇天
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周りに天使が飛び交っていますが、我々の聖母被昇天とは程遠い構成です。現在残っている聖母被昇天のイメージは、1517年ティッツアーノ作品が起源のようです。
            聖母被昇天(ティッツアーノ作)
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以降年代順に名作を紹介します。
         聖母被昇天(エル・グレコ 1579年作)
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聖母被昇天より前の時点となりますが、似た雰囲気の絵も紹介します。
         無原罪の御宿り(ベラスケス 1618年作)
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           聖母被昇天(ルーベンス 1626年作)
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         無原罪の御宿り(ムリーリョ 1665年作)
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 並べてみると、ティッツアーノのオリジナリティーが出色です。ルーベンス作品の聖母被昇天の昇天スピードが一番早そうに見えます。
 現在の聖母被昇天のイメージは、ティッツアーノの作品が起源となっていそうです。




 「アダムとエヴァ(イブ)」の絵は旧約聖書の楽園追放から描かれた。現存する絵は意外と新しい。調べた限りでは、ルネッサンスに先駆けてマザッチオが1426年頃に描いた「楽園追放」が一番古そうである。
              楽園追放(マザッチ作)
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左が修復前、右が修復後(1980年頃)のようである。
 次に見つかったのがフランドル派のフーゴ・デル・グースが1440年頃に描いたとされる「エデンの園」の絵である。
           エデンの園(フーゴ・デル・グース作)
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デューラーが1507年に描いた「アダムとエヴァ」が、我々のイメージに一番近い。
            アダムとエヴァ(デューラー作)
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ドイツの画家デューラーは2回ヴェネチアに画家留学した超エリートである。数々の傑作を残した。同じくドイツで彼より1年遅れで生まれたクラナッハは、多数の「アダムとエヴァ」の絵を残している。しかしながら、デューラーと比べると一段低く評価されていたようである。クラナッハが1508~10年に描いた作品を紹介する。
            アダムとエヴァ(クラナッハ作)
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 デューラーの絵を見て、類似の絵をクラナッハが描いたと私には思える。クラナッハの有名な「10頭身」もデューラーが最初に描いたと思える。
 クラナッハは同じテーマの絵を何十枚も描いた。更に工房を持って、弟子にも描かせたようである。注文を受けたらドンドン描いたようである。芸術作品は技量/大きさ/美しさ/斬新性のすべてが必要と、私は考えている。特に斬新性がなくなると、工芸品になってしまうと考える。工芸品が壊れたりして希少になると、骨董品になる。クラナッハのエヴァをいくつか紹介する。
                1518年作
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                1525年頃作
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クラナッハらしい絵になってきています。
               1526年頃の作品
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これもクラナッハのパターンです。
               1531年頃の作
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この頃が、クラナッハのピークですかネ。
これ以降は肉感的な感じが強くなり、やがて子(息子)の作品が混ざってきます。
クラナッハ作と言われる「アダムとエヴァ」、「エヴァと天使」は40枚以上見つかりました。同じ構成の絵が増えてしまうと、芸術というよりは工芸品になってしまいます。デューラーより低く見られた原因ですかネ。

 ケルビン・グローブ美術館所蔵のサルバトール・ダリ作「十字架の聖ヨハネのキリスト」を、世界絵画最高傑作に推薦します。ダリがシューリアリズムの絵画で名声を得て、ふと立ち止まってキリストに関する絵を3枚描いたそうです。
 この作品をグラスゴー市が買い上げ、現在はケルビン・グローブ美術館に展示されています。購入当時は税金の無駄使いたと、大騒ぎになったようです。現在では、グラスゴー市の貴重な宝となりました。
十字架の聖ヨハネのキリスト(サルバトール・ダリ作)
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評価法に従い、推薦理由を紹介します。
1.技量(画力)
    ダリのシューレアリズム絵画は細密画です。現物を見ると予想以上の
   小ささに困惑します。この絵は大作です。大作を描いても、ダリの技量
   に揺るぎがありません。素晴らしいデッサン力です。
2.大きさ
    十分な大きさです。ダリの細密描写で、実物以上の大きさも感じます。
3.美しさ
    妙な美しさです。堪らなく静かです。
4.訴求性(斬新性)
    キリストの架刑を上から描いた絵は他にありません。独創的で美しい。
   宗教に詳しくないので良く分かりませんが、とにかく荘厳です。
   前例のない種類の傑作だと思います。

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