2014年7月にシュテーデル美術館(フランクフルト)に行きました。今回は、ヨハネス・フェルメール作「地理学者」を紹介します。
 ヨハネス・フェルメール(1632~1675年)はデルフト生まれのバロック期のフランドル画家です。父親は絹織物職人・宿屋の主人・画商等をやっていました。誰に師事したかは伝わっていません。ヨハネス・フェルメールは寡作な画家です。風景画の「デルフト眺望」と「牛乳を注ぐ女」が最高傑作と言えると思います。フェルメールは高尚な風俗画を描きました。1662年からの2年間と1669年からの2年間、デルフトの聖ルカ組合理事を務めています。家業が忙しいうえ聖ルカ組合理事の業務も加わり、寡作にならざるを得なかったのでしょう。
 フェルメール最大のパトロンのピーテル・クラースゾーン・ファン・ライフェンの遺産に、この地理学者と天文学者は入っていません。フェルメールの現存作品の間で、学者の風俗画は地理学者と天文学者だけです。どうも別のパトロンからの特別注文で描いた作品のように思えます。どのようなパトロンが依頼したかを、絵から推定してみます。
 地理学者と天文学者には、次のような特徴がみられます。
① 天文学者も地理学者も容貌・衣装が平凡で、誰が描かれているのか判然としません。
  フェルメールにしては、描き込みが甘い。これらの学者から依頼された肖像画とは
  思えない。依頼者は、地理学者や天文学者ではない。
② 「天文学者」と「地理学者」は対だという説があるが、二人とも同じ人物(モデル)
  のように見える。絵の大きさもほぼ同じです。雰囲気も含めて、並べて飾った作品
  のように思える。
③ 光の当たり具合(ハイライト)から判断して、「地理学者」の主題(主役)は地図、
  「天文学者」の主題は天球犠だと思われる。特に、天球儀はヨドクス・ホンディウス
  が発明(創作)したもので、デザインも同じもの。ヨドクス・ホンディウスの息子
  や孫(ヨドクス2世、ヘンリクス2世)が天球儀や地図の制作事業を継続していた。
  ヨドクス・ホンディウス継続事業者(子孫)がフェルメールに製作依頼した可能性
  が高いように感じる。

 「地理学者」にはフェルメールのサインと制作年が描き込まれている。発色が良くコントラストも高い。細密な描き込みも見事。仕上げの光の点(白い点)も、後方の天球儀(地球儀?)に見られる。これらを考えると、フェルメールも完成した傑作だと考えて、サインと制作年を描き込んだ。
 「天文学者」は発色、コントラスト、フェルメールとしては細密描写が不足。もうひと塗りするつもりだったと思われる。約束納期の都合か依頼主の希望(好み)で、フェルメールとしては未完成の状態で納品されたと思われる。だから仕上げのひと塗りが省かれ、サインも入れなかった。 
 私の眼では、「地理学者」の方が出来が良い。 
地理学者(ヨハネス・フェルメール、1668~69年作)
地理学者 フェルメール作

天文学者(ヨハネス・フェルメール、1668~69年作、ルーヴル美術館蔵)